スペイン中部トレド県のロス・イェベネスとウルダの間の高速鉄道で、10月28日午前9時前、マドリード発セビリア行きの国鉄RenfeのAVEが、前に止まっていた民間鉄道会社Iryoの列車に追突した。カスティーリャ・ラ・マンチャ州のガルシア・パヘ州首相は15時半すぎ、死者が少なくとも68人になったと明らかにした。同じ路線で1月にコルドバ県アダムスで起きた事故の死者46人を上回る。プエンテ運輸相は午後の記者会見で、午前8時半ごろにウルダ付近で信号システム(LZB)が障害で止まった後、鉄道インフラ会社Adifの管制が、前に列車がいる状態のまま、AVEに速度の制限なしで運転の再開を許可したと説明した。規則では、時速40キロ以下の目視運転にすべきだったという。サンチェス首相は3日間の国の服喪を発表した。マドリードとアンダルシアを結ぶ高速線は止まったままで、再開の見通しは立っていない。日本人の被害は17時の時点で報じられていない。
止まっていたIryoに、後続のAVEが追突
事故が起きたのは、マドリードからシウダー・レアル、コルドバを経てセビリアに向かう高速線の118キロ地点。AVE2080便はマドリードのプエルタ・デ・アトーチャ駅を午前8時に出発し、セビリアのサンタ・フスタ駅に10時39分に着く予定だった。同じ方向に向かっていたIryoの6076便に、このAVEが後ろから追突した。衝突の時刻は、Iryoが8時48分、救急の112番が8時54分としている。
州政府や地元メディアによると、Iryoの後ろの車両など少なくとも2両が脱線し、盛り土の斜面から転落した。Iryoは衝突の前から止まっていた。乗客はAVEが390人あまり、Iryoが147人だった。
運輸相「再開の判断は説明がつかない」
プエンテ運輸相は14時50分ごろから、マドリードのアトーチャにあるAdifの運行管理センターで記者会見を開いた。運輸相の説明によると、午前8時30分ごろ、ウルダの区間で列車を制御する信号システム「LZB」が、コンピューターの通信の障害で止まった。区間を走っていた列車は、自動で止まった。
その後、Adifの管制は8時36分、このAVEに、通常どおりの運転で再開するよう許可した。先の区間には列車がいて、信号は赤だった。運輸相によると、規則ではこの場合、通常の運転での再開はできず、時速40キロ以下で前方を見ながら走る目視運転にしなければならなかった。同じ指示を受けた別の列車の運転士が、目視運転のはずだと指摘し、その列車への指示は改められた。しかし、AVEは最初の許可のまま走り出し、20〜25キロほど走って、止まっていたIryoに追突したという。速度は時速200キロ近くに達した可能性があるとしている。
運輸相は、交信の録音を聞いたと明かし、再開の判断を「説明がつかない」「誤った」ものだと述べた。指示を出した担当者は特定したが、まだ話は聞いていないとし、責任を決めるのは捜査だとした。一方、治安警察隊などが管制の担当者から事情を聴いていると報じられている。辞任については「今は考えていない」と述べ、スペインの鉄道は「信頼でき、安全だ」とした。運輸相によると、Iryoにも再開の指示が出ていたが、止まり続けた理由は分かっていない。Renfeは声明で、自社の列車は許可を受けて再開したとし、Iryoは「理由が分からないまま止まっていた」としている。
運輸相によると、LZBは1992年の路線の開業から使われてきたもので、製造が終わったため置き換えを進めていた。新しい欧州標準の信号システム(ERTMS)は、事故の区間ではまだ試験の段階だったと報じられている。
死者は少なくとも68人に
州首相は15時半すぎ、死者を少なくとも68人に引き上げた。13時50分ごろの64人(Iryoの乗客40人、AVEの乗客24人)から4人増えた。州首相によると、AVE側の死者は24人で、ほかはIryoの乗客だった。州首相は、車両の下などでさらに亡くなった人が見つかる可能性があるとしており、車両の下の捜索は裁判所の許可を待っている。
州首相が示したけが人は、救急の区分で最も重い「赤」が15人、次に重い「黄」が53人で、ほかは軽いけがだった。州政府の14時時点のまとめでは、手当てをしたけが人は108人で、うち58人が入院し、50人はウルダとコンスエグラの体育館で手当てを受けた。トレド、シウダー・レアル、アルカサル・デ・サン・フアンの病院が受け入れ、マドリード州も、ラ・パス、12デオクトゥブレ、ヘタフェの3病院で受け入れの態勢を取った。
死者数は、午前中から報道によって大きく違った。州政府は午前10時すぎに「少なくとも10人」、昼前に「少なくとも30人」、13時50分ごろに64人とし、15時半すぎに68人とした。
捜査
管轄するオルガスの裁判所の予審判事が捜査を担当している。カスティーリャ・ラ・マンチャ州の高等裁判所は、多くの犠牲者が出た事故のための手順を発動し、判事や法医などの5チームを置いた。オルガスには、被害者と家族のための窓口(925 317 020)を設けた。治安警察隊は200人以上を出している。技術的な調査は、7月に鉄道事故調査委員会(CIAF)の仕事を引き継いだ国の独立調査機関が受け持ち、調査官3人が現場に入った。
サンチェス首相は16時ごろ、「過失があったのなら、明らかになる」と述べた。1年のうちに高速鉄道で2度の大事故が起きたことは受け入れられないとしつつ、アダムスの事故と今回の事故の原因に共通点はないとの見方を示した。
鉄道の運行と切符、家族の窓口
Adifは、マドリードとアンダルシアの間の高速線の運行を、追って知らせるまで止めるとしている。Renfeは、影響を受けたすべての列車の変更と取り消しを無料にした。Iryoも、マドリード発の南方面の全便を取りやめた。Ouigoも、28日のマドリードとアンダルシアの間の便を取りやめた。Adifによると、昼の時点で、高速線のマドリード〜トレド間と、マラガ〜セビリア間は通常どおり走っていた。Renfeの無料の変更・取り消しは、Iryoなど他社の切符には自動では適用されないため、切符を買った会社の案内を確かめたい。
イベリア航空は、マドリードとアンダルシアを結ぶ便の運賃に、11月8日まで上限(1区間あたりエコノミー99ユーロ、ビジネス149ユーロ)を設け、マラガ便を1便増やした。
事故の被害者と家族のための電話窓口は、Renfeが900 10 10 20。Iryoは公式Xで900 001 403を案内している。Adifは、マドリードのアトーチャ、セビリアのサンタ・フスタ、コルドバのフリオ・アンギータ、マラガのマリア・サンブラノの4駅に、家族向けの窓口を設けた。治安警察隊は、身元の確認のため、行方が分からない人の1親等の家族に、マドリード、セビリア、コルドバ、トレドの拠点でDNAを提供するよう呼びかけている。
機関士の労働組合Semafは、29日のRenfeの24時間ストを「鉄道の安全を守るため」として予定どおり行うと発表した。運輸省が決めた最低運行は、AVEとAvloで73%。30日から予定しているOuigoのストについての判断は、17時の時点で確認できていない。最低運行の内容は、29日のRenfeストの既報と、Ouigoのストの既報にまとめている。
国の服喪、行事の取りやめ相次ぐ
サンチェス首相は、29日午前0時から3日間の国の服喪を発表した。国王フェリペ6世はガルシア・パヘ州首相と電話で話した。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「きょう、欧州はあなたたちとともに泣いている」と弔意を示した。
上院は28日と29日の活動をすべて取りやめ、下院も28日に予定していた式典を取りやめた。スペインサッカー連盟は、28日に予定していた国王杯の試合を延期した。11月29日の総選挙に向けた運動も、多くの党が取りやめた。アンダルシア、マドリード、エストレマドゥーラの各州と、セビリア市も3日間の服喪を決めた。市町村連合(FEMP)の呼びかけで、全国の市町村の庁舎の前では、20時に1分間の黙とうが行われる。マドリードで予定されていた農業団体のトラクター行進は、犠牲者を悼む集まりに切り替えられ、マドリードの医師は、犠牲者と家族への敬意から29日と30日のストを取りやめた(ストの既報)。
日本の読者への解説
スペインの高速鉄道では、今年1月18日にもコルドバ県アダムスで、脱線したIryoの車両に対向のAlviaが衝突し、46人が亡くなった。この事故も、今回と同じマドリード〜セビリア線で起きた。鉄道事故調査委員会(CIAF)は4月、レールの破断が原因とする暫定の報告を裁判所に送ったが、責任を問う司法の捜査は続いている。今回の死者はその46人を上回り、同じ路線で1年のうちに2度、数十人が亡くなる事故が起きたことになる。
スペインでは、線路と信号、列車の運行の管制は国のAdifが受け持ち、その上を国鉄Renfeと、新規参入のIryo、Ouigoが同じ規則で走っている。今回、運輸相が問題にしているのは、信号の障害の後のAdifの管制の判断だ。国営と新規参入の会社が同じ線路を走る仕組みは、解説記事にまとめた。
マドリードからセビリア、コルドバ、マラガ、グラナダへ高速鉄道で移動する予定の人は、乗る列車の会社の公式案内で運行を確かめてほしい。家族や知人が乗っていた可能性がある場合は、上の電話窓口や、在スペイン日本国大使館に問い合わせることができる。この記事は28日17時ごろまでの情報に基づいている。死者数などは今後変わる可能性がある。28日夜に公開された交信の録音や、29日以降の運行などは続報にまとめた。













